追加される4分野のうち、依然注目度の高い「自動車運送業」を掘り下げます。
人手不足解消 というメリットはもちろんですが、この業界で“外国人ドライバー”が増えることのメリットを考えてみましょう。
母国語対応でサービスを受けられる顧客が増えれば、会社の顧客満足度アップにもなりますし、ドライバー自身のやりがいにも繋がるかもしれません。
日頃から外国人ドライバーと一緒に働くことで、外国人顧客と接する戸惑いが減り、対応しやすくなるでしょう。
日本人ドライバーが外国人のマナーや習慣に慣れていると、異文化への抵抗感を無くせます。結果スムーズなコミュニケーションやトラブル回避に繋がります。
見過ごせない懸念点があるため、この追加決定を大歓迎とは言えないムードもあります。
資格取得に伴う費用は自分で支払うこともありますが、基本的には会社負担です。
外国人に限ったことではありませんが、二種免許は難易度が高く試験に落ちてしまうことがあり得ます。労働者側は受かるまでは業務できませんので収入に響きますし、会社側は業務に従事出来ない要員が増えるリスクを抱えるため慎重になるのも頷けます。
また、母国とは異なる日本の交通ルール、日本の交通標識などにも精通しなければなりません。
母国で語学の勉強を沢山してきた人でも、実際に暮らし始めるまで日本での習慣、礼儀、文化を知らなかった・理解出来なかった ということはよくあることです。
とはいえサービス業においてはクレームを極力避ける振る舞いを身につける必要があります。 ですからかなりのコミュニケーションスキルが求められます。
賃金アップを図らず外国人材に救いを求める政府の姿勢をネガティブに捉える空気が逆風となっています。また、職業ドライバーを「時間外労働960時間」で規制し、人材が足りなければよそから連れてくれば良いという考えは本当に「働き方改革」なのかと不満を抱く現役ドライバーも多いようです。 そもそも今いるドライバーが働きやすい環境でなければ、新しい人材が集まるかどうかに疑問が残ります。
こうした懸念点を考えると、特定技能の範囲拡大によって必ずしもすぐに採用者が増えるとも言い難く、実際にドライバーとして(特にタクシーやバスのドライバーとして)働く外国人労働者の道は狭き門になりそうです。
単に労働者を増やせば良いというわけではありませんが、それでも外国人ドライバーに期待を寄せている会社もあります。
例えば元々ブラジル人の多い静岡県浜松市のある運送会社では、数年前からブラジル人を積極的に採用し始めたところ、人柄の良い同国出身の友人を紹介してくれるようになり、企業は人材確保と顧客からの信頼獲得を実現。今回の規制強化に向けて、外国人ドライバーを新たに採用することを決めたと言います。
企業側としては、口頭で伝わりにくい取引先の場所説明に、ビジュアルで分かる地図を用意し、家族をとても大事にするブラジル文化に配慮して、子どもと時間を過ごしたいドライバーの泊まりがけの仕事を無くすなど調整を行っています。(ANNnewsCH)
このように同じ言語の外国人を積極採用するなら、サポート体制を整えやすくなります。また、長く気持ちよく働ける仕組みによって、離職率の低い人材確保へと繋がり、長い目で見た時に問題解決の大きな助けになるかもしれません。
2023年10月10日、国土交通大臣は、記者会見にて外国人労働者の在留資格「特定技能」に「自動車運送業」を追加する方向で出入国在留管理庁と調整していると明らかにしました。
・バスの運転手
・タクシーの運転手
・トラックの運転手
・商品配送の運転手
・送迎サービスを行っている運転手 等
ドライバー不足の問題が深刻化する背景にはどんな理由があるのでしょうか?
オンラインショッピングの利用者、また観光地や地方を訪れる外国人が増加し、商品配送や旅客輸送ドライバーの需要が右肩上がりです。
コロナ禍でドライバーの退職者が増えました。その上こうしたドライバー職は、長時間労働になる割に賃金が安く、若者に人気が無いため運転手の高齢化が進んでいます。
(株)東京商工リサーチの発表によると、2023年1月から11月までの道路貨物運送業の倒産の件数が287件と急増しています。要因は様々ですが、「人手不足」関連の倒産は前年より2.2倍に増え、運転手不足の問題は年々深刻になっています。
時間外労働上限を年間960時間とする規制は、2024年3月末まで運転手など一部の職種では適用が猶予されてきました。しかしいよいよ来年4月からは、運転手も適用になります。この影響で、更に人手不足が進み物流の停滞が懸念されています。
こうした状況を打開しようと、全日本トラック協会・日本バス協会・全国ハイヤー・タクシー連合会の3団体は、それぞれ今春に策定した23年度事業計画で、「特定技能」にドライバーを追加するよう政府に要望しています。
ドライバー職の人手不足の深刻化を鑑みると、外国人労働者雇用を積極的に進めていく動きには希望が持てます。 慢性的な人材不足の業界に人材確保の光が差したということは喜ばしいのですが…
そもそも外国人が “企業側の雇用できる人材”になるには幾つか障害がありそうです。
今回検討されているのは在留資格「特定技能」です。日本語レベルはもちろん、日本在住期間の条件もあります。
さらにドライバー職には当然運転免許が必須です。それも旅客輸送の場合、第2種免許を取得しなければなりません。
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この第2種免許試験は日本語のみのため、かなり高いハードルがあります。さらにそこに追い打ちをかけるのが、引っかけ問題。日本人でも引っかかるような微妙な表現のニュアンスを読み取り、正しく答えるのがどれほど大変か想像に難くないのでは無いでしょうか?
大型のトラックやバス、客を乗せるタクシーを安全に運転するためには、ルールやマナーを理解することは必要不可欠です。
しかし、母国との違いを理解し慣れていくことは一朝一夕にはできません。 例えば日本は車は左側通行・右ハンドルですが、フィリピンは車は右側通行・左ハンドルです。世界規模で見ても、日本のような左側通行は少数派です。
また、運転マナーに対する認識としては、シートベルトをする習慣が無かったり、信号無視や速度超過に対する意識が低いこともあります。母国と同じ感覚で運転すると、細かな違反で罰則を受けることになりかねません。
タクシードライバーであれば、客とのコミュニケーションスキルも仕事に影響します。 海外でタクシーに乗るとプライベートなこともガンガン質問されることがあります。日本で空気を読まずにそうするなら、クレームに発展することもあり得ます。
また、乗客の中には泥酔客や無理を言う客もおり、うまく対応するのは日本人でも難しいことです。不要なトラブルを避けながら仕事をしていく上では、日本ならではの接客スキルも必要となります。
こうして見てみると、外国人労働者を受け入れた場合、言語面でのサポートに加え、運転マナーや接客スキルの教育面でも何らかの研修体制が必要になりそうです。
これらの難題があっても、それでも是非働きたい!と思ってもらうためには、外国人労働者が安心して働けるサポート体制の構築が求められるでしょう。
「特定技能」”自動車運送業” の検討は今後どう進展していくのでしょうか。引き続き注目していきたいです。