林業・木材産業も「特定技能1号」に追加!
令和6年3月29日に林業分野、木材産業分野が新たに特定技能制度の対象分野に追加されることが閣議決定されました。木材産業分野における特定技能外国人の受入れは、今後、省令等の改正が行われた後に開始する予定です。
※ 林業: 50年~100年という長い年月をかけて森林を適切に管理し、森林資源を利用しながら、健全な森林を守り育てる産業。
植林や人工林の整備・伐採は林業に含まれます。
木材産業: 山や林・森から切り出した木を用途に応じて加工する産業。一般に、木材の切り出し・木材の加工等を指す。
二つはセットで語られることが多いですが、この記事では主に林業をメインに扱います。
《林業のこれまでと現状》
近年木材需要が拡大する中で人材不足が懸念されている林業 。
2020年の全国の林業従事者数は4万4000人程度。1990年は約10万人、2000年は約6万7000人だったので、数十年減少傾向で推移してきました。とはいえ全産業で若年者率が低下する中にあって、林業は概ね上昇しています。
林業への新規就業者確保のため、「緑の雇用」研修があります。これは林業技術などを研修しつつ雇用を促進する国の(林野庁が主体となって行う)補助事業です。
緑の雇用研修生の1年目の定着率は7割超。この調子でいけば林業人口が増えてもいいはずなのですが、蓋を開けてみると新規就業者のうち約半数が5年後には辞めているという現実。経験を積み、一人前になって活躍できるようになったところで辞めてしまうのです。
この労働者の減少は重要な課題となっており、これに対処するため外国人労働者の活用が注目されています。
外国人労働者のニーズ
下刈りや植林などの造林は人力に頼らざるを得ません。この造林が人手不足のため、外国人労働者を待望する声があります。さらに山村地域は特に林業従事者の高齢化が進んでおり、人材確保が困難です。 具体的には、今回の改正により、
林業: 育林、素材生産、林業種苗育成、伐採搬出や間伐、草刈りなどの造林作業に
木材産業: 製材業、合板製造業など木材加工分野に 外国人を入れようという狙いがあるようです。
林業について基本的な知識・技能を有し、現場の状況に応じて作業手順を自ら考え、育林や素材生産などの作業を行うことができる即戦力の外国人が求められています。
外国人労働者は2023年10月末時点で205名であり多くはないが、近年は増加傾向。(森林・林業・木材産業の現状と課題:林野庁より)
今年度(令和6年度)から5年間で、林業で1,000人、木材産業で5,000人の外国人材を受け入れる目標値設定。
(日本林業調査会(J-FIC)より)
今後、林業の在留資格はどうなる?
林業・木材産業界は、これまで技能実習制度では最長でも3年の在留資格しか得られませんでした。(『林政ニュース』第714号参照)。
「特定技能」の「1号」に指定されると最長5年の在留資格が認められ、人材活用の幅が広がることになります。
受け入れ企業の要件
林業/木材産業の受け入れ企業も他の業種と同じように協議会への参加が必須。
▶︎特定技能所属機関【林業】は、農林水産省が設置する「林業特定技能協議会」(以下「協議会」という。)【木材産業】は「木材産業特定技能協議会」に加入する。
↓
加入後は、協議会が行う活動に対して、必要な協力をする。
協議会及び農林水産省(又はその委託を受けた者)の調査又は指導等に対し必要な協力を行う。
林業分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針 参照
▶︎林業に関する知識や技術を習得するためのトレーニングと教育を外国人労働者へ提供する。
外国人労働者の要件
業種 | 試験区分 | 試験区分(日本語) |
林業 | 林業技能測定試験 | 「国際交流基金日本語基礎テスト」又は「日本語能力試験(N4以上)」 そのほか、「日本語教育の参照枠」のA2相当以上の水準と認められるもの |
木材産業 | 木材産業特定技能1号測定試験 | 「国際交流基金日本語基礎テスト」又は「日本語能力試験(N4以上)」 そのほか、「日本語教育の参照枠」のA2相当以上の水準と認められるもの |
実際に従事するには現場用語や安全面でのスキルも必要になると考えられる。
《懸念点と課題》
先ほども触れた、仕事に慣れた頃の林業従事者の定着率が低いことに課題があります。
日本人労働者が定着しない理由は外国人にとっても同じである可能性が高いからです。
ではなぜ慣れた頃に辞めるのでしょうか。
①雇用形態
雇用形態が派遣や請負労働に近く、不安定な現状があります。
一般に林業従事者は、森林組合など事業体の職員(社員)と現場で働く作業員に分かれます。作業員は雇用されるほか独立して一人で働く個人事業主もいます。 現在人手が足りないと言っているのは、ほとんど作業員です。
作業員は一般職員とは違い、働いた日数分だけ支払われる日給月給方式が多く、有給休暇もありません。また雨の日は仕事がなくなる代わりに土日に働くこともあります。厚生年金や雇用保険、労災保険などの社会保障制度に加入させない事業体も少なくありません。
しかし林野庁では、森林組合の雇用労働者の年間就業日数210日以上の者の割合を2025年度までに77%まで引き上げることを目標としており、よりよい環境が整えられつつあります。
②事故発生率の高さ
足場の悪い斜面の現場が多く、伐倒 等危険な作業があります。毎年20~30人が亡くなっており、死傷事故は年間1000件以上。事故発生率(千人率)で見れば、2022年で23.5。全産業の発生率が2.3であることと比べると、10倍以上という数字です。
こうしたことを考えると、外国人労働者が安全に欠かせない現場用語に精通していることは必須でしょう。
こうした課題点を見据えて…
外国人に魅力を感じてもらうには、雇用環境の整備が必須と言えそうです。
まず雇用前に基本的な日本語や地域の生活習慣、そして特に安全技術を身につけてもらうことが不可欠でしょう。
給与など待遇面の向上とフォロー体制があれば定着に繋がるかもしれません。
例えば、ある企業はバングラデシュの自社訓練施設で建築技能訓練を積めるようサポートし、実習生を即戦力化するトレーニングを行っています。
林業自体の若年者率は高まり注目されているので、待遇面でのネガティブイメージや不安点を払拭できれば、就業を希望する外国人が増えることも期待出来そうですね。